3月3日から5日にかけて、ドイツ南西部に広がる黒い森地方のカーニバルを取材してきました。
訪れた町はフィリンゲンとロットヴァイルの2つ。これらの町を含めた黒い森の各地では、ゲルマン民族の伝統が前面に押し出されたユニークなカーニバルが開催されることでも有名です。
今回はカーニバルが最高潮を迎える「薔薇の月曜日」に、フィリンゲンで行われた各種パレードの様子を紹介します。
Contents
カーニバルとはどんなお祭り?
日本語では「謝肉祭」と訳されることも多いカーニバルは、キリスト教に由来するお祭り。
古代から中世にかけて、キリスト教ではイエス・キリストの復活を祝うイースターまでの40日間に断食する習慣がありました。その断食期間に入る前の締めとして「思いっきり食べて騒ごう!」と始まったお祭りが、今日のカーニバルの原型です。
開催日は年によって異なりますが、だいたい2月中旬から下旬あたりの「薔薇の月曜日」および翌日の火曜日に各地で大規模なパレードが開催されます。現在では宗教的なお祭りというよりは、「寒い冬を追い払って、春の訪れと祝う」と言った」意味合いが強いです。
また断食こそしないものの、カーニバル後の40日間は節制と祈りにつとめ、自分の生活を振り返る期間と考えているキリスト教徒が多いです。現にこの時期のテレビでは、レポーターが町の人に「あなたはイースターまで何を我慢しますか?」と質問するのをよく見かけます。
15世紀から続くフィリンゲンのカーニバル
中世から続くフィリンゲンのカーニバル。町の記録によると、既に15世紀には仮装して仮面を被った人々がカーニバルを祝っていたのだそうです。
フィリンゲンも含め、今日まで受け継がれている黒い森地方のカーニバルを特徴づけているのが、人々が仮面で顔を隠しているということ。顔が分からないのを良いことに見物している知り合いにこっそり近づいて、ちょっかいを出す…というのがこの地域のカーニバルにおける風習なのだとか。
ちなみにドイツでは地域ごとに、カーニバルの呼び方が異なります。バイエルンやザクセン、オーストリア、そして北ドイツの一部では「ファッシング」と呼ぶのに対し、北ドイツの大部分では「カーネヴァル」。そしてドイツ南西部の地域では「ファスナハト」と呼ぶことが多いです。
さらにドイツ南西部の中でも、黒い森地域では「ファスネット」というまた違う呼称があります。
掛け声は「ミャウ!」フィリンゲンの「猫のカーニバル」
黒い森の各地で開催されるカーニバルの中でも、フィリンゲンを有名にしているのが「猫のカーニバル」。日本でも「猫に仮装した子供たちが可愛すぎる!」とネットで話題になりました。
猫のカーニバルは、正式には「猫の音楽の行進(Einmarsch der Katzenmusik)」という名前。リーダー格の雄猫「ミャウ」に率いられ、猫に扮した人々が音楽に合わせて行進します。
「猫の音楽」の由来となるのが、普仏戦争から町に帰還した兵士たちが1872年に結成したグループ「ミャウ(Miau)」。皆さんご察しの通り、猫の鳴き声から付けられたグループ名です。
ただカーニバルを祝いたいという音楽家や芸人から成るグループでしたが、その演奏の上手さからたちまち有名に。その後フィリンゲンのカーニバルにとって欠かせない存在となり、現在では加盟者グループが20を超える大きな協会にまで成長しました。
音楽に合わせて行進する猫たちは見た目もさまざま。赤や緑のお揃いのジャケットを着ている「カッツェンローリー(Katzenrolli)」たちは、なにか悪だくみをしているかのような笑みを浮かべています。
猫に対抗して、犬の山車で参加するグループも。
猫のカーニバルなので、掛け声は「ミャウ!」。パレードで行進する猫たちの「ミャウ!」という掛け声にこちらも「ミャウ!」と答えれば、お菓子を投げてもらえます。お菓子が欲しい子供たちが「ミャウミャウ!」と元気な声で猫の気を引こうとしている姿は、とても微笑ましいものでした。
ちょっと恐い道化師たちの行進
猫のカーニバルは朝8時から行われましたが、そのすぐ後と午後には独特な仮面と民族衣装に身を包んだ道化師たちのパレードが行われました。
歴史ある街並みを彼らが闊歩する姿は、まさに中世へタイムスリップしたかのよう。音楽に合わせてステップを踏めば、体中についた鈴が「ジャンジャン」と大きな音を立てます。
さきほどの猫のカーニバルでは掛け声が「ミャウ」でしたが、ここでは「ナリー!」との掛け声に観客が「ナロー!」と答えます。この「ナロ」というのは、フィリンゲンのカーニバルにおけるもっとも重要な道化師たちの名前です。
「ホーホホホ」と笑い声のような声を上げながら行進をするナロ達。列を外れて観客のところにヒソヒソ話をしに行ったり、写真のような木の道具をびよーんと伸ばして見物人の帽子を取ってしまったりと、なんだかやりたい放題。
私の所にも、「どこから来たの?」や「楽しんでる?」みたいなヒソヒソ話をしに何人かやてきました。短い会話を交わした後、彼らはお菓子をくれて去っていくという感じです。
フィリンゲンのカーニバルを盛り上げるキャラクターたち
カーニバルの様子を紹介したところで、フィリンゲンのカーニバルを代表するキャラクター達を紹介します。
まず紹介するのは、このお祭りの主人公である「ナロ(Narro)」。独特な衣装に身を包み、頭からはキツネの尻尾をぶら下げています。体に付いている銅製の鈴は、重い時で総重量が20kg以上にもなるとのこと。彼らが体中の鈴を鳴らしながら行進する様子こそ、フィリンゲンのカーニバルを最も象徴するシーンと言えるでしょう。
ナロ達が被っている仮面は菩提樹の木から造られたもの。ひとつひとつ手作りなので、皆それぞれ微妙に表情が異なります。彼らが身にまとう衣装もまた、手作業で絵付けされたものです。
ナロに同伴して歩いているのは「アルトフィリンガリン(Altvillingerin)」。ナロの女性版ともいえ、20世紀初頭にかけて起こった女性解放運動の影響を受けて誕生したキャラクターです。
彼女らが身に着けているのは、フィリンゲンに伝わる民族衣装。手には小さな箱を持っていて、中に入っているお菓子を見物客に配ります。
ナロの「農民」バージョンが、青い服を着ている「シュタヒ(Stachi)」。あまり表情のないナロに比べて、どこか冷笑的なイロニーを帯びた笑みを浮かべているのが特徴です。
手に持っている「はたき」で見物客をはたいたり、帽子を盗んだりするので要注意。
彼らと一緒に歩いている女性たちは「モービリ(Morbili)」。アルトフィリンガリンのおばあちゃん版です。
伝統色の強いフィリンゲンのカーニバルですが、そんな中でコミカル担当ともいえるのが「ブッツエーゼル(Butzesel)」。1914年から登場するロバ頭のキャラクターは、黒い森のカーニバルにおける最も古い動物モチーフのひとつです。
うしろにいるシュタヒ達は「トリーバー(Trieber)」と呼ばれ、いわば彼の見張り役。それでもシュタヒの目を盗んでパン屋や肉屋へ逃げ込む事に成功すれば、ロバにはそこで好きなものをたらふく食べることが許されます。そんな訳で、耳には戦利品とも言えるソーセージがぶら下がっているのです。
ブッツエーゼルが登場するときの掛け声は「ブッツ!ブッツ!ブッツ!234!」。どこかで聞いたことのあるメロディーだなと思っていたら、ドイツのバンド、ラムシュタインの「Links 234」という曲でした。
猫のカーニバルを率いるのは、雄猫の「ミャウ(Miau)」。全身黒づくめの恰好で首には毛皮を巻き、手にはランタンを持っています。普段は町の塔に閉じ込められていますが、カーニバルの日曜日になると音楽と共に自由の身に。猫の音楽隊を引き連れて町を練り歩いた後、カーニバルが終わると再び塔に閉じ込められてしまうのです。
町の目抜き通りでもあるNiedere通りには、ミャウの噴水も置かれています。彼の尻尾に乗っているのは、「聡明さ」を表すフクロウ。
「カッツェンローリ(Katzenrolli)」は古いポストカードとスケッチに描かれた猫から生まれたキャラクター。大きな目がちょっと恐い猫たちで、ジャケットやボーダー柄の靴下、破けたズボンは放浪者をそれとなく表現しているのだそうです。
すべてを紹介するとキリがないのでここまでにしますが、フィリンゲンのカーニバルには他にも個性的なキャラクターが沢山登場します。皆さんも現地でぜひお気に入りの登場人物を見つけてみてください。
私のお気に入りは、やはり主人公のナロ。一瞬ギョッとする見た目ですが、音楽に合わせてぴょんぴょん跳ねたり、「ホーホホホ」を声を上げている姿が、なんだか憎めない奴なんです。
混雑も少なくておすすめ
今回紹介したフィリンゲンも後日紹介するロットヴァイルも、カーニバルが盛大に盛り上がる一方で混雑が少なく、とても快適に見物することができました。どのくらい混雑が少ないのかというと、パレードが始まる直前に行ってもどこかしら最前列で見れる場所があるという感じです。
私はケルンとマインツのカーニバルに行った事がありますが、会場はものすごく混んでいてパレードを見るのも必死。それに比べると黒い森はかなりのんびりしていて、それ故にパレード参加者と観客、そして観客同士の交流も多いです。
音楽が流れると誰が合図するのでもなく皆が歌い始めたり、となりにいる初対面の人と腕を組んで体を揺らしたり、沢山貰ったお菓子を分けてもらえたり。小さな町ならではの温もりが感じられます。
パレードがない時も町の中心で音楽隊による演奏がされるなど、各種イベントも開催。またパレード以外の時は町を彷徨っているナロ達が沢山いて、「ここはどこ?」と疑問を抱いてしまう様な非現実で不思議な世界を体験できます。
フィリンゲンのカーニバルへのアクセス
フィリンゲンがあるのはドイツ南西部、黒い森のちょうど真ん中あたり。
一番近い大都市であるシュトゥットガルトからは、電車で約2時間(ロットヴァイル乗り換え)の道のりです。
駅からは目の前に伸びている道をまっすぐ進むと、パレードの会場となるニーデレ通り(Niedere Str.)に出ます。このほか町の主要道路であるビッケン通り(Bickenstraße)、リート通り(Rietstraße)、オーベレ通り(Obere Str.)が会場です。
始まるのが朝8時と早いので、全てを余すところなく見たいという方はシュトゥットガルトやフィリンゲン、または近くの町に宿泊するのをおすすめします。私は今回はフィリンゲンの駅前にあるHotel Villa 8に2泊し、フィリンゲンとロットヴァイルのカーニバルを訪れました。ホテルはいつもBooking.comで探しています。
黒い森に宿泊する場合、町によっては「KONUSカード」というゲストカードを発行してもらえます。黒い森内の電車に無料で乗れるほか、博物館などの割引もあるお得なカードです。
[box06 title=”関連記事”]黒い森の電車やバス 、博物館が無料になる「KONUSゲストカード」[/box06]
おわりに
私は2009年に同じくフィリンゲンとロットヴァイルのカーニバルを訪れていて、今回は10年ぶりの再訪となりました。10年前はこのカーニバルを見たいがためにドイツを訪れたのですが、再びこの地に立ってその時のワクワクと緊張が混ざった気持ちが甦ってくるようでもありました。
「カッツェンローリ」など当時はいなかったキャラクターが登場してビックリしましたが、それ以外は以前と変わらぬまま。新しいものを取り入れつつ、伝統がしっかり受け継がれている様子を確認することができとても嬉しかったです。
カーニバルは終わってしまいましたが、ドイツにはまだまだ面白いイベントが盛りだくさん。今年ドイツで行われるイベントは「【2019年版】ドイツで開催されるお祭り・イベントまとめ」にリスト化してあるので、興味のある方はこちらも参考にどうぞ。
翌日訪れたロットヴァイルのカーニバルについては「お茶目なドイツ版「ナマハゲ」が登場するロットヴァイルのカーニバル」で紹介しています。
取材協力:ドイツ観光局
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