美しい木組みの家がならぶ中世の城塞都市エスリンゲン

シュトゥットガルトからすぐ近くに、エスリンゲンという町があります。

旧市街はカラフルな家や木組みの家が並び、中世の趣たっぷり。ドイツ最古のゼクト(スパークリングワイン)醸造所や運河沿いの風情ある風景、冬には中世のクリスマスマーケットが開催されるなど、小さな町ながら見どころが満載です。

苦難を乗り越えて現代に受け継がれる美しい街並み

エスリンゲンが文書に初めて登場するのは、777年のこと。12世紀には神聖ローマ皇帝バルバロッサから帝国自由都市の称号を与えられ、町はしだいに発展していきます。皇帝を輩出したシュタウフェン家の王たちもこの町に滞在したほか、15世紀には帝国議会も開催されました。

一方で13世紀から16世紀にかけては、シュトゥットガルト周辺を治めていたヴュルテンベルク公から何度も攻め入られたエスリンゲン。17世紀の30年戦争では、「ネルトリンゲンの戦い」から逃げてきた1万2000人もの人々が町に流入。彼らが持ち込んだペストが町に大発生し、人口は半数にまで減少してしまいました。

またその後のプファルツ継承戦争では、フランス軍が町を占拠。18世紀には町の中心部の建物200件あまりが火災で焼け落ち、焼失した家々はバロック様式で再建されます。

様々な戦禍に巻き込まれたりペストが流行したりと多くの苦難を乗り越えながら、そのたびに再建を果たしてきたエスリンゲン。第二次世界大戦で爆撃を受けるものの被害は大きくなく、歴史ある美しい街並みが現代に受け継がれています。

エスリンゲンのみどころ

リンブルク、ゲッティンゲンに並び、ドイツ最古の木組みの家が残されているエスリンゲンの旧市街。見どころは中心部にまとまっていて、全て徒歩で巡ることができます。旧市街を散策したら、ぶどう畑の上にある見晴らし台に上るのも忘れずに。

アグネス橋からの眺め

エスリンゲン旧市街の入り口とも言えるのが、ロスネッカー運河の上にかかるアグネス橋。橋の上からは中州に立つ木組みの家や教会の2本の塔が見え、初めてこの町を訪れる人にとって「どんな旧市街が待っているんだろう」とワクワクさせてくれる場所でもあります。

木組みの家のなかにはイタリアンのチェーン店のほかワインや雑貨などを販売するお店が入っているので、時間があればちょっと覗いても楽しいかもしれまん。

橋のすぐ近くには「シェルツ門」がります。13世紀に建造され、当時はエスリンゲンをぐるりと囲む城壁の一部でした。城壁があったころは門としての機能を果たしていましたが、城壁なき今となっては塔のみが残されています。棒の上を歩いている人「スカイウォーカー」は、フーベルト・フォン・デア・ゴルツという芸術家によって1980年代に造られた作品です。

聖ドインス教会

アグネス橋を渡って川沿いの道を歩いていくと、橋からも見えていた教会「聖ドインス教会」が目の前に迫ってきます。777年にこの場所からエスリンゲンの歴史が始まったと言われていて、13世紀に建てられた建物は3代目。2つある塔をつなぐ橋の部分は、16世紀に取り付けられました。

ゴシック様式の教会らしく、内部は天井が高くて開放感があります。天井部分は木の板で覆われていますが、祭壇が置かれている前方部分の天井には美しいヴォールト(アーチ)を見ることができます。

祭壇のうしろにあるステンドグラスは、1300年に造られたという大変歴史のある作品。280枚以上ものガラス板から作られ、イエスキリストの生涯や新約・旧約聖書の場面などが描かれています。町が数々の戦禍に巻き込まれるなか、これだけの大作が破壊されなかったのはまさに奇跡としかいえません。

マルクト広場の目と鼻の先にありながら、時間帯によっては訪問する人がほとんどおらず、ある意味穴場ともいえる教会。私が訪れた時はちょうどパイプオルガンの練習もしていて、教会内をつつむ荘厳な空気感を誰にも邪魔されず楽しむ事ができました。

ドイツ最古のゼクト醸造所

聖ドインス教会のすぐ東には、ドイツ最古のゼクト(スパークリングワイン)醸造所である「ケスラー」が店を構えています。

創始者のゲオルク・クリスティアン・フォン・ケスラーは、フランスの名門シャンパン醸造所「ヴーヴ・クリコ」での活躍を経て、1826年にこの場所でドイツ初のゼクト醸造所を設立した人物。彼のつくり出したゼクトはドイツ政府レセプションの公式シャンパンになったほか、国内外を問わず現在でも高い評価を受け続けています。

醸造所ではガイドツアーで内部を見学できるほか、ショップで試飲をしながらお気に入りの1本を探すことも可能です。ドイツ最古の醸造所が造るゼクトをお土産にしてみては?

新旧市庁舎のあるラートハウス広場

エスリンゲン旧市街のハイライトとも言えるのがラートハウス広場。中心に立つ旧市庁舎は「町の中で最も美しい建物」といわれるほどで、ルネサンス様式の美しいファサードや鮮やかな色あいが通りゆく人々を魅了しています。

1423年に完成した旧市庁舎では、当時は1階部分で肉やパンの取引が行われていたほか、上層階では市民のお祭りなどを行うホールがあったのだそう。毎日8時、12時、15時、18時そして19時30分になるとからくり時計が動き出し、どこか懐かしいようなメロディーがあたり一帯に響き渡ります。

旧市庁舎の向かいに立つのは、18世紀に建造された新市庁舎。さきほど18世紀に町の中心部で大きな火災があったと解説しましたが、この市庁舎もその後バロック様式で再建された建物のひとつです。

2つの市庁舎がある周辺は、町の中でも特に保存状態の良い木組みの家が集まるエリア。カラフルな色の可愛い家が並ぶ様子は、まさにメルヘンの世界に迷い込んだかのようです。シュトゥットガルト周辺は工業地帯のイメージが強いですが、ひとつひとつの町に注目して見るとこのような可愛らしい町がいくつもあるんですよ。

青空市も開催されるマルクト広場

ラートハウス広場のすぐ西にはマルクト広場があります。水曜と土曜には青空市が開催され、地元産の野菜や果物、ワインなどが並んでみているだけでも楽しいです。ラートハウス広場とマルクト広場ではアドヴェントの時期になるとクリスマスマーケットも開催され、美しい街並みとイルミネーションが調和して幻想的な世界を演出します。

ここでも広場を囲むのは、立派な木組みの家やカラフルな家々です。写真の一番右に写っているのは、1582年に建てられた「キールマイヤーハウス」。さきほどの旧市庁舎は「町で最も美しい建物」でしたが、こちらは「町で最も美しい木組みの家」なんだそうです。後ろに教会の塔が見えていますが、この教会については次の章で紹介します。

聖母教会

マルクト広場から塔が顔をのぞかせていたのは、14世紀から15世紀にかけて建設された聖母教会。こちらも長い歴史のある教会ですが、エスリンゲンにある教会のなかではかなり新しい方に入ります。

12世紀からの発展の中で町の中には数々の教会が建設されましたが、それらは全て修道院のもの。町や市民には教会を持つことも建てることも許されていませんでした。そんな中1321年に法律が改正され、市民でも教会が建てられるように。そこで市民らが寄付を集め、当時ここにあった礼拝堂を新築したのがこの聖母教会です。

ゴシック様式のホール型教会としては、南西ドイツで最古を誇る聖母教会。中に足を踏み入れると、天井の美しいアーチとそこから下へ流れるようにして教会を支える何本もの柱が目に飛び込んできます。

祭壇のうしろにあるステンドグラスは1330年に造られたもの。その上にあるブルーとゴールドで装飾された天井とともに、あたり一帯に神々しさをもたらしています。

インネレ橋と小ヴェニス地区

運河にかかるインネレ橋は1286年に建設された、ドイツで2番目に古いといわれる石橋。イタリアはフィレンツェにあるヴェッキオ橋のように、橋の上にお店が並んでいます。かつては交易路ともつながっていて、橋を渡る商人から徴収した通行料で町の経済も潤ったのだとか。

インネレ橋の下流には、「小ヴェニス」と呼ばれているエリアがあります。運河のすぐ上に建物が立っている様子がよく見えますね。ベンチも置いてあるので、川のせせらぎを聞きながらしばしのんびり過ごしてみるのもいいかもしれません。

古い水車も回っています。発電に使われているらしく、現在の発電量が小屋の所に表示されていました。

「小ヴェニス」エリアから門をくぐると、ゼクト醸造所や聖ドインス教会がある場所に戻ってきます。

町を一望できる城壁

旧市街の散策が終わったら、ワイン畑の上にある城壁にもぜひ上ってみてください。700年もの歴史を持つ城壁は、かつて町全体を囲んでいたものの一部。28ヵ所の門と50本の塔をもつ城壁で囲まれたエスリンゲンは、シュヴァーベン地方で最も守りの固い城塞都市のひとつでもありました。

町から城壁の上まで行くには、300段くらいある長い長い階段を上ります。一気に上るのは大変なので、所々で止まって眼下の景色を楽しみながらゆっくり上りましょう。

階段を上りきった先から見えるのは、オレンジ色の屋根がならぶ旧市街。すぐ下に広がるワイン畑は周辺地域では最小かつ最古と言われ、リースリングやシュペートブルグンダーをはじめとする5品種のブドウが栽培されています。

城壁の反対側は公園になっていて、芝生の上でくつろいでいる人の姿がちらほら。実際に上っている時はあまり分かりませんが、壁を下から見上げると結構迫力がありますよ。

中世のクリスマスマーケット

クリスマスマーケットはドイツ各地で開催されますが、エスリンゲンではちょっと珍しい中世のクリスマスマーケットが楽しめます。ただでさえ中世の雰囲気たっぷりの旧市街で開催され、お店の人が身にまとっているのも中世の衣装。まさに現代からタイムスリップしたかのような気分が味わえます。

メルヘンムードたっぷりな通常のクリスマスマーケットとはまた違う、独特な雰囲気につつまれた中世のマーケット。革製品や木工製品といった手工業品や「メット」と呼ばれるはちみつワイン、中世の衣装などのお店があります。

幻想的な夜のライトアップも素敵ですよ。

エスリンゲンへのアクセス

エスリンゲンへはシュトゥットガルトからS-Bahnまたはローカル列車でアクセスできます。所要時間は10分~20分ほど。シュトゥットガルトからは10分おきくらいに電車が出ているので、時刻表はあまり気にしなくても大丈夫です。

駅を出たら目の前に大きなショッピングセンタ―があるので、その左を通る大通り(ベルリナー通り)を200mほど進み、橋の手前でシェルツトール通りを右折します。するとシェルツ門がもう見えるので、門があるところまで行けば旧市街の入り口であるアグネス橋もすぐ目の前です。

おわりに

中世の雰囲気が色濃く残る町エスリンゲン。シュトゥットガルトからも気軽に来れる場所にあるので、シュトゥットガルトに滞在予定の方はぜひエスリンゲンも訪れてみてください。近代的な工業都市のすぐ近くにこんなに可愛い町があるのか!と、驚く方も多いかもしれません。

クリスマスの時期に南西ドイツを訪れるのであれば、エスリンゲンのクリスマスマーケットは絶対訪れるべき!シュトゥットガルトを拠点に、エスリンゲンやルートヴィヒスブルクなど周辺のマーケットを巡ってみるのも良いですね。

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