山の上には2つの古城 木組みの家が並ぶ小さな街ヴァインハイム

先日は気温が40度近くあるなか、ヴァインハイムとハイデルベルクの取材をしてきました。日本のガイドブックには載っていないほぼ無名のヴァインハイムと、南ドイツ観光の定番であるハイデルベルク。そんなコントラストもさながら、2つの町がもつ素晴らしさを沢山発見できて収穫の多い取材旅行になりました。

ヴァインハイムは、ドイツの観光街道のひとつ「ベルクシュトラーセ」にある町。「2つの古城がある町」としても知られ、これら古城が立つ山の麓に可愛らしい町が広がります。国内外からの休暇先としても人気で、この町に滞在しながら周辺の地域でハイキングやサイクリングを楽しむ人も多いです。

ヴァインハイムの見どころ

旧市街にはマルクト広場を中心に市庁舎や植物園のほか、東には中世の趣が残るゲルバーバッハ地区が広がります。2つの古城は町はずれの山の上にあるので、車でのアクセスが無難。ハイキングしながら向かう事もできますが、時間がかかるので1日で2つの城を巡るのは難しいかもしれません。

また2つの古城は雰囲気もだいぶ異なります。1つしか行く時間がない場合は廃墟が好きならヴィンデック城跡、中世らしいお城が見たいならヴィンデック城砦がおすすめです。

マルクト広場

町の中心にあるマルクト広場。バロック様式の聖ラウレンティウス教会が存在感たっぷりに立ち、ここから続く緩やかな下り坂にレストランやカフェが並びます。教会の前にあるのは戦死者の追悼碑で、旗を持っている人物はこの町に住んでいた仕立て屋の男性がモデルなのだそうです。

追悼碑の背後に見えるのは「赤い塔」。14世紀に町を囲む城壁の一部として建てられ、19世紀半ばまでは牢獄としても使用されていました。

坂を下りきった所にある旧市庁舎は現在観光案内所になっていて、ここで見どころを教えてもらったりガイドツアーの予約もできます。旧市街を巡るツアーはもちろん、ワインツアー、夜警ツアーなど色々な種類があるので、観光のはじめに寄ってみてその日にどんなツアーがあるか聞いてみると良いですよ。

広場にあるレストランはドイツ料理、イタリア料理、フランス風ビストロなど多国籍なので、何かしら食べたいものが見つかるはず。せっかくなら郷土料理が食べたいという方は、レストラン「Diebsloch」に入ってみましょう。シュニッツェルをはじめとする典型的なドイツ料理のほか、ビールソースをかけた地元のソーセージといったここならではの料理が味わえます。

Diebsloch

【住所】Marktpl. 11, 69469 Weinheim
【営業時間】11:00~23:00

 

市庁舎とシュロスパーク

マルクト広場から教会の脇にのびる坂を上ると市庁舎があります。市庁舎はかつてプファルツ選帝侯の居城だった建物で、いわばヴァインハイムの3つ目の城。バロック様式やルネサンス様式など、1400年頃から時代ごとに異なる様式で増築がされていきました。

市庁舎の裏にはシュロスパークが広がり、市民の憩いの場所となっています。この眺めは、なんと市長の部屋のバルコニーから。一般には公開されていないものの、今回特別に入らせてもらえました。工事現場のように目隠しされている部分は、全てこの後の週末に開催されたお祭りの準備なんだそうです。

シュロスパークから見た市庁舎。ちょっと木に隠れてしまっていますが、一番背の低い建物のバルコニーがある部分が市長の部屋です。

公園の中でも特に注目したいのが、1720年頃にこの場所に植えられたドイツ国内で最古かつ最大のレバノン杉。高さ20m以上、幹の太さも5mを超えるその姿は、周囲の木々と比べても貫禄たっぷり。ほかにも園内には1840年頃に植えられた巨大なイチョウの木があります。秋になると葉っぱが黄金に輝いてそれはそれは美しいのだと、案内してくれた観光局のマリアさんが教えてくれました。

園内をもう少し南へ下っていくと、池越しに古城が見渡せるスポットに到着。旧市街からはどちらか1つの古城のみが見えることが多く、遮るものなく2つの古城が見渡せる場所はとても貴重です。手前に見える塔は「青い帽子(Blauer Hut)」と呼ばれ、町を囲んでいた城壁のなかでも最も古い部分(1300年頃建設)にあたります。

ヘルマンスホーフ植物園

市庁舎の北にあるのはヘルマンスホーフ植物園。広さ約2.2ヘクタールの庭園では、春はチューリップ、5月頃には藤など季節ごとに様々な花が咲き乱れます。庭園自体は、自動車や機械部品のサプライヤーである家族企業フロイデンベルク社の私有地。ここで植物の研究が行われているほか、一般にも公開され誰でも無料で入ることができます。

庭園に植えられている植物は2500種以上。私が訪れた7月後半にはジニアやアザミ、ユリなどの花が見頃を迎えていました。

ここドイツですか?と思わず聞いてしまいそうなほど大きなオレアンダーの木。こんなに大きくて冬越しはどうするのだろうと気になるところですが、ヴァインハイム周辺は冬でも比較的温暖なので、上からビニールハウスをすっぽり被せてしまえば冬でも大丈夫なのだそうです。

オレアンダーの後ろで小さな白い花を付けているのはギンバイカ。この庭園の持ち主であったヘルマン・エルンスト・フロイデンベルクが1879年にヘレネという女性と結婚した際、結婚式で彼女の頭を飾っていた王冠の花を挿し木したものがここまで大きくなったというエピソードがあります。挿し木からこんなに大きくなるなんてすごいと思いながら、ロマンチックな話を聞けてなんだか嬉しくもなりました。

藤の時期にはちょっと遅かったですが、2つくらい花が残っていました。見頃の時期にはここが藤のトンネルになって、とても迫力があるそうです。

小さな池があったり森のように木が茂っていたりと、場所によって様々な風景が楽しめるヘルマンスホーフ植物園。椅子やベンチも各所に置かれているので、美しい庭を眺めながらのんびり寛いでみてください。

ヘルマンスホーフ植物園

【住所】
【開園時間】10:00~19:00

 

木組みの家がならぶゲルバーバッハ地区

町の中心にあるマルクト広場から更に坂を下っていくと、木組みの家が並ぶゲルバーバッハ地区が広がります。「ゲルバー」というのはドイツ語で「革職人」を表す言葉。中世にはここを流れる川の近くに、皮なめし職人が沢山住んでいました。

かつて皮なめし職人が住んでいた木組みの家は、どれも立派なものばかり。

皮なめしで必要だったのが大量の水。ヴァインハイムに限らず、川や水路の周辺に職人が住んでいたという町はドイツで少なくありません。コンクリートで舗装されてしまい当時の面影はあまりありませんが、子供たちの遊び場になるなど現在も住民から親しまれている水路です。

中世の趣が残る通りは、訪れる人も少なくとても静か。形や色使いの異なる家をひとつひとつ観察しながら、ゆっくり歩いてみたい場所です。

地元のビール醸造所「Woinemer Hausbrauerei」

町に必ず1つはビール醸造所があると言われるドイツ。ヴァインハイムにもちゃんと地元の醸造所「ヴォイネマー・ハウスブラウアライ(Woinemer Hausbrauerei)」があります。「ヴォイネマー」というのは「ヴァインハイム」がこの地方の方言で訛った言い方。醸造所にはビアレストランも併設され、出来立てのビールを美味しい料理とともに味わう事ができます。

醸造所ではビアマイスターでもあるオーナーがちょうどいて、中を案内してもらえました。仕込みタンクがあるのは、「北欧モダン」という言葉がぴったりのおしゃれな部屋。ビアマイスターの朝は早く、早朝2時半から仕込みなどをするというのだからビックリです。

他にも発酵タンクや貯酒タンクのある部屋を見学。発酵には1週間くらいかかり、そこで出来た「若ビール」をさらに数十日ほど熟成させて美味しいビールが出来るとのこと。熟成期間はビールの種類ごとに異なり、クリスマス用のビールはもう今の時期から仕込みを始めるそうです。

見学後はビアレストランで、季節限定のカシスビール「ヨハニ(Johanni)」を飲んでみました。潰したカシスをビールと混ぜ、エキスが出たところでろ過するという中世のレシピによって造られているのだそう。苦みがほとんどなくて飲みやすく、特に女性受けしそうな味でした。ほかにも毎月ごとに限定ビールが登場するほか、もちろんピルスやヴァイツェンといった定番ビールも飲む事ができます。

ビールの販売もしているので、気に入ったビールをお土産に買って帰るのもアリですね。ここ以外に町のスーパーでも購入可能です。

Woiheimer Hausbrauerei HP

【住所】
【営業時間】11:00~23:00

 

ヴィンデック城跡

ヴァインハイムに2つある古城の1つが、廃墟となっているヴィンデック城砦(Burgruine Windeck)。ここから10kmほど離れた場所にあるロルシュ修道院を守るための城として、1100年頃に建設されました。17世紀の三十年戦争では被害を受けなかったものの、その後プファルツ選帝侯領に攻めてきたルイ14世率いるフランス軍によって破壊。廃墟として現在まで残されています。

お城の壁や塔にも登れますが、階段がちょっと急かつ滑りやすいので足元には注意。

雰囲気の良いレストランがあるものの、特別な行事などの時にしか使われていないとのこと。食事など楽しみたければ、もうひとつの古城であるヴァッヘンブルクへ行ってみましょう。

お城から見渡す旧市街も素敵ですね。空が霞んでいなければ、はるか遠くマンハイムまで見えるそうです。

ヴィンデック城跡

【住所】
【営業時間】11:00~

 

ヴァッヘンブルク城

ヴァッヘンブルク城はヴィンデック城砦と比べるとかなり新しい城で、1907年から1928年にかけて学生同盟の集会場として建設されました。現在でも5月のキリスト昇天祭の日には学生同盟の集会が開かれるほか、祝賀行事、文化イベントなどの会場としても使われています。私達が訪れた日もちょうど野外映画上映が行われるところでした。

お城の入り口に立っているのは、所属する学生同盟の紋章が飾られた門。所属している学生同盟は周辺地域のみならず、ドレスデンやフライブルクといったドイツ各地に広がっています。

中庭は長めの良いテラスになっています。建てられたのは20世紀に入ってからであるものの、中世の雰囲気たっぷりで古城ファンにはたまりません。中庭に面した他の建物には大きな祝賀ホールがあり、ちょうど結婚式の準備をしているところでした。

このテラスで食事をした私達ですが、せっかくなのでレストランの中も見せてもらいました。壁にはこちらも学生同盟の紋章などが描かれ、繋がりの強さみたいなものを感じます。

メニューは種類こそ多くないものの、ベジタリアンメニューから肉、魚まで一通り揃っています。ここで食べたのはサーモンのマリネとハッシュドポテト。特にサーモンは、地元産のスッキリとしたリースリングとの相性が抜群でした。これだけでお腹いっぱいでしたが、「デザートも美味しいよ!そんなに大きくないから!」と言われて頼んだクレーム・ブリュレがまた大きくてアイス付き・・・。でもクリーミーで本当に美味しかったです。

ヴァッヘンブルク城 HP

【住所】Auf der Wachenburg, 69469 Weinheim
【レストラン営業時間】16:00~23:00(水~金)、10:00~23:00(土、日)

 

ヴァインハイムで開催される主なお祭り

ヴァインハイムでは年間を通じて様々なイベントが開催され、なかでも重要なのが8月に開催される「ケルヴェ(Kerwe)」。ベルクシュトラーセにおける最大の市民祭で、4日間のあいだ旧市街全体がお祭りムードに包まれます。手工業者のお店が並んだり各種催し物もあったりと見どころも多いので、近くに滞在予定の方はぜひ足を運んでみてください。

ヴァインハイマー・ケルヴェ(Weihneimer Kerwe)

開催期間(2019年):8月9日~12日

 

またアドヴェントの時期には、マルクト広場でクリスマスマーケットが開催されます。イルミネーションに包まれた旧市街や、暗闇に浮き上がる古城を眺めながら飲むグリューワインはまた違った味わいかもしれませんよ。

クリスマスマーケット

開催期間(2019年):12月7日~22日の週末のみ

 

アクセス

周辺地域からのアクセスも良いヴァインハイム。フランクフルトやハイデルベルクから近く、日帰りで訪れることができます。小さな町に宿泊したいという方は、逆にこの町に泊ってあちこち出かけるのもおすすめ。交通手段は電車のほか、やや時間はかかりますがハイデルベルクやマンハイムからはトラムも走っています。

フランクフルト:
ICE、ICで40分、ローカル電車で50分

ハイデルベルク:
ローカル電車で30分、トラムで50分

マンハイム:
ローカル電車で20分、トラムで40分

シュトゥットガルト:
ICで1時間

駅から町の中心までは徒歩で15分ほど。バスに乗る場合は633番のバスに乗って、4つ目の停留所「Hermannshof」で降りれば中心部に一番近いです。

おわりに

ヴァインハイムは今回初めて訪れましたが、歴史ある街並みのなかに緑が多かったのがとても印象的でした。ヘルマンスホーフ植物園に咲く花々は本当に綺麗で、季節ごとに様々な花が咲く様子をまた見に来たいと思ったほどです。

中世の趣が残る旧市街や2つの城、地物のビールなど、小さな町ながら見どころも沢山。まだあまり知られていない事が勿体なすぎるくらい素敵な町なので、ぜひもっと多くの人に訪れてほしいです。

 

取材協力:ヴァインハイム市観光局
Vielen Dank an Stadt Weinheim!

1 COMMENT

現在コメントは受け付けておりません。