ユーゲントシュティールにフンデルトヴァッサー フランクフルト近郊のダルムシュタットで建築めぐり

ダルムシュタット(Darmstadt)はフランクフルトから南へ電車で20分ほどの場所にある町。

ほかの有名都市に比べればまだまだ知名度は劣りますが、ダルムシュタットはユーゲントシュティールをはじめとする建築の宝庫。かの有名なフンデルトヴァッサーが設計した集合住宅もこの町にあり、建築好きさんにはぜひ一度訪れてほしい町です。

そんなダルムシュタットで建築めぐりをしてきたので、その様子を紹介します。

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ダルムシュタットへのアクセス

ダルムシュタットへのアクセスの拠点となるのはフランクフルト。

フランクフルトからダルムシュタットへはS3、S4またはローカル線で行くことができます。所要時間は約20分。

フランクフルト中央駅からS-Bahnを利用する際は地下のホーム、ローカル線利用の場合は長距離列車が発着する地上のホームが乗り場になります。

ユーゲントシュティールの宝庫「マチルダの丘」

ダルムシュタット到着してまず向かったのは、町の東にあるマチルダの丘(Mathildenhöhe)

マチルダの丘はヘッセン・ダルムシュタット公国の最後の大公であったエルンスト・ルートヴィヒが、19世紀末から20世紀にかけて造った芸術家村。かれはこのためにヨーロッパ各地から名だたる芸術家をダルムシュタットに呼び寄せました。

集まったのはモダニズム建築の先駆者でもあったペーター・ベーレンスや、クリムトが結成したウィーン分離派に所属していたヨゼフ・マリア・オルブリッヒなど。丘の上には彼らが建てたユーゲントシュティールの家々が建ちならび、当時の様子を伺い知ることができます。

なかでもとりわけ目を引くのが、1908年に完成したオルブリッヒ設計の「結婚式の塔(Hochzeitsturm)」。ルートヴィヒ公とエレオノーレ妃の結婚を記念して町から贈られた建物です。この塔については後ほど詳しく触れるので、まずはほかの建物を見てみましょう。

結婚式の塔のすぐ近くにあるのは、ロシアの建築家レオン・ベノワによって設計されたロシア教会。ルートヴィヒ大公の娘アレクサンドラがロシア最後のツァーリ(皇帝)となったニコライ2世と結婚後、皇帝一家のダルムシュタット訪問にむけて建設。1899年に完成しました。

ロシア教会の特徴ともいえる玉ねぎ型の屋根。写真ではよく見えませんが、その下の部屋みたいな所には鐘があり、いまでも手動で鳴らしているそうです。

内部は撮影禁止ですが、繊細で美しいモザイク画に覆われた内装は必見ですよ。

ロシア教会の目と鼻の先にあるのは、アルビン・ミュラーによって造られたパビリオン。柱の上部分にある白鳥のレリーフから「白鳥堂(Schwanentempel)」とも呼ばれています。

屋根の内部には植物のモチーフが描かれるなど、ユーゲントシュティール要素がとても分かりやすい形で表現されています。

パビリオンから階段を下りていくと、かつて芸術家たちが住んでいた家々が並んでいます。

こちらはベーレンスが設計した、その名も「ハウス・ベーレンス(Haus Behrens)」。ベーレンスは外観のみならず、内部の細かいところまで設計にこだわったのだそう。

赤茶色の屋根瓦や緑の「うわぐすり」をかけたレンガは、当時の建材としては革新的なアイデアでした。

壁に「こだま」みたいなものが描かれているのは、「グローセス・ハウス・グリュッケルト(Großes Haus Glückert)」。設計したのは、さきほどの結婚式の塔も手掛けたオルブリッヒです。

同じくオルブリッヒ作の「エルンスト・ルートヴィヒ・ハウス」。建物の南側には写真のような華々しい装飾がされています。現在は芸術家コロニー美術館になっていて、かつてこの芸術家に住んでいた芸術家たちの作品が展示されています。

ここで紹介したのはほんの一部。マチルダの丘にはほかにも見どころが沢山あるので、建築や特にユーゲントシュティールに興味があればぜひ足を運んでみてください。

結婚式の塔

オルブリッヒの設計で1908年に完成した結婚式の塔。

結婚式の塔と言うくらいですから、入り口のモザイク画も愛に溢れています。写真はフリードリヒ・ヴィルヘルム・クロイケンス作の「キス」。作品のモチーフはもちろんルートヴィヒ公とエレオノーレ妃です。

向かいの壁にも同じ作者のモザイク画があります。描かれているのは運命の女神と、「愛の象徴」である白い鳩。

塔の一番上は展望台になっているほか、6階にある「大公妃の部屋」では正式な結婚式を挙げることも可能。HPによると年間で500組もここで式を挙げているらしく、相当人気なようです。

ちなみにですが、ここでいう「結婚式」は日本の披露宴みたいな式ではありません。ここでの結婚式は、役人の前で証人を立てながら書類にサインをし、結婚の誓いをするというもの。ドレスを着たりもしますが(小ぎれいなスーツやワンピースなんて人も)どちらかと言うと事務的な式で、30分くらいで終了してしまいます。

とはいえ、名前が「結婚式の塔」というくらいですから、ここで式を挙げれば何かご利益がありそうですね。

展望台からは、遠くはフランクフルトのビル群も見渡せました。

結婚式の塔(Hochzeitsturm)HP

【住所】Olbrichweg 11, 64287 Darmstadt
【営業時間】10:00~18:00(11月~2月は金、土、日の11:00~17:00)
【休業日】12/24、12/31
【料金】3€
【最寄り駅】Mathildenhöhe(バス F)

 

フンデルトヴァッサーの遺作「ヴァルトシュピラーレ」

マチルダの丘とはまた違った建築芸術を楽しめるのが、フンデルトヴァッサー作の集合住宅「ヴァルトシュピラーレ」。完成直前の2000年にフンデルトヴァッサーは亡くなり、彼の遺作となります。

フンデルトヴァッサーの設計といえばウィーンにある「フンデルトヴァッサーハウス」が有名ですが、ドイツにも10件ほど彼設計の建物があります。この様な集合住宅のほか保育園なんかもあるんですよ。

ここには105世帯が実際に住んでいてるので、見学できるのは外側のみ。一部フンデルトヴァッサー様式でデザインされている部屋もあるそうです。どんな人が住んでいるのか気になる。

昔はカフェも入っていたみたいですが、どうやら閉店してしまったもよう。中を見てみたかったので残念。

直線を嫌っていたフンデルトヴァッサーらしく、外壁には緩やかな波線が描かれています。窓は1000個以上あり、ひとつとして同じ形のものはないのだとか。

カラフルな柱や金ピカな玉ねぎ形の屋根など、メルヘン要素満載の集合住宅でした。

ヴァルトシュピラーレ(Waldspirale)

【最寄駅】Messplatz (トラム4、5)

 

おわりに

今回はマチルダの丘とヴァルトシュピラーレしか紹介しませんでしたが、ダルムシュタットにはほかにも大公国時代の威厳を感じさせる建物が多く残っています。可愛い旧市街みたいなのは期待できませんが、建築や芸術が好きな方にはとても興味深い町だと思います

ダルムシュタットはフランクフルトから20分。フランクフルト滞在のついでにぜひ足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?