世界遺産とドイツワイン発祥のまちトリーア

先日、ドイツ西部はモーゼル川流域にある2つの町、トリーアとコッヘムを取材してきました。

トリーアでは世界遺産、コッヘムではライヒスブルク城で開催された城祭りが今回のテーマ。訪れた各スポットや城祭りについては私が寄稿しているウェブメディア上で書く予定なので、ブログでは純粋に旅行記として紹介していきます。

という訳で、今回は取材旅行トリーア編をお届け。町の中の観光は全て徒歩です。

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ここは「第2のローマ」 2000年以上もの歴史をもつドイツ最古の町トリーア

ドイツ西部を流れるモーゼル川流域のまちトリーア(Trier)は、2000年以上もの歴史を持つドイツ最古のまちです。

町の起源となるのは、紀元前16年にローマ帝国がこの地に築いた植民都市「アウグスタ・トレヴェロールム」。ローマ帝国はヨーロッパ進出のため各地に街道や拠点となる町を建設しましたが、トリーアもそんな拠点のひとつだったのです。

ちなみに「アウグスタ・トレヴェロールム」という名前は、時の皇帝だったアウグストゥスにちなんだもの。5世紀までローマ帝国の支配下にあったトリーアでは、ドイツ最古といわれる石橋のほか円形競技場や皇帝浴場が建設されました。

そんな町の様子は、いうなれば「第2のローマ」。町のインフラも整えられ、最盛期には5万人もの住民がここに暮らしていたのだそう。

現在トリーアの各所に残されているローマ時代の遺跡はドイツにおける最も重要なローマ遺跡であり、世界遺産に登録されています。

ドイツワイン発祥の地

ドイツワイン発祥の地ともいわれているトリーア。この地にワインをもたらしたのは、さきほども触れたローマ人でした。

しかし最初に彼らが持ってきた赤ワイン用の品種はここの痩せた地では育たず、白ワイン用の品種が持ち込まれます。ローマ人はその後もぶどうの品種改良を続け、それが今日のドイツワインの原型となったのです。

ドイツには16のワイン生産地域があり、トリーアを含めるモーゼル川流域や支流であるザール川、そしてルーアー川流域で生産されるのが「モーゼルワイン」。ここで生産されるのはほぼ白ワインで、品種はリースリングが6割ほどを占めています。そのほかはミュラー・トゥルガウや私も好きなケルナーが代表的です。

またモーゼルワインの産地は、ぶどう畑の傾斜が急なのも特徴。電車の車窓からもよく見えましたが、断崖絶壁みたいなところにブドウが植えられていてびっくりでした。畑の傾斜が60度以上なんて所もあるのだとか。

ここでのワイン造りはまさに命がけなのです。

大聖堂の前で楽しむキリリと冷えたモーゼルワイン

朝自宅を出発し、トリーアに着いたのはお昼前。ホテルに荷物を置いたら、大聖堂前にあるワイナリー経営のレストラン「Weinstube Kesselstatt」で昼食にしました(写真は夕方に撮ったものです)。

レストランの名前にもなっているワイナリーのケッセルシュタット(Kesselstatt)は、650年以上の歴史を持つ老舗。モーゼル川のほか、支流であるザール川やルーアー川流域でもワイン製造をしているかなり大規模なワイナリーです。

せっかくモーゼルワインの産地に来たので、リースリングと地元産の鱒のマリネを頂きました。よく冷えた辛口のワインとプリプリの鱒は相性抜群!青空の下、目の前には大聖堂という特等席で早くも最高な気分に浸ったのでした。

ちなみにレストランはセルフサービスになっています。中のカウンターで飲み物と食事を注文し、席で待っているとお料理が運ばれてきます。

Weinstube Kesselstatt HP

【住所】Liebfrauenstraße 10, 54290 Trier
【営業時間】11:30~22:00(火~土)、11:30~14:00、18:00~22:00(日、月)

 

トリーア大聖堂と聖母教会

美味しい食事とワインでいい気分になったところで、目の前にみえるトリーア大聖堂へ。

ケルン、マインツとならぶドイツ3大大聖堂であるトリーア大聖堂。4世紀に建設が始まったという大変歴史のある建物で、長きにわたり時の司教らによる増築が繰り返されてきました。そのためロマネスク様式やゴシック様式など、時代ごとの様々な建築様式が融合しているのがこの大聖堂の特徴でもあります。

内部は一見すると質素にみえますが、よくみるとあちこちに豪華な祭壇や装飾が見られます。

中でも目を引くのが、後方にあるバロック様式の丸天井。化粧漆喰と象眼細工で装飾されています。彫刻がとても繊細かつ躍動的に造られていて、今にもぴょこっと飛び出してきそう。

中央部分にある巨大パイプオルガンもかなり目立っていました。1974年に設置されたパイプオルガンは5602本ものパイプから成っていて、一番大きなパイプは重さなんと125kg!

オルガンの総重量は約30tにもなり、こんなに重いものが壁にくっついている事にも驚きです。日本だと耐震の関係ですぐ取り外されちゃいそう。

そして正面祭壇の奥にはイエスキリストが身にまとったとされる衣が、聖遺物として保管されています。普段は人目に触れることがなく、年に一度だけ公開されるとのこと。

大聖堂の隣には聖母教会(Liebfrauenkirche)があります。大聖堂とはまた違った、柔らかな雰囲気に包まれた教会内部。ステンドグラスを通して差し込む日の光が周囲をピンク色に染め、それはそれは美しかったです。

天井の装飾からも、どことなくやさしさが感じられる聖母教会でした。

トリーア大聖堂(Dom)

【住所】

 

「黒い門」ことポルタ・二グラ

大聖堂と聖母教会を見学後は、町の北にある「ポルタ・二グラ」へ。

ローマ人により2世紀に建設されたポルタ・二グラ。当時のトリーアは写真のように全長約6.4m、高さ6mの壁で囲まれていて、ポルタ・二グラは町の「北門」としての役割を果たしていました。

中世にはこの門で過ごしていたギリシャ人の修道僧「シメオン」を称えるべく、門を増築するかたちで教会が作られます。塔や身廊も造られましたが、1804年から1809年にかけてこの町を占拠したナポレオンの命により、再びそれらは取り払われてしまったのでした。

ところで「ポルタ・二グラ」はラテン語で「黒い門」という意味があります。しかしこの名は中世につけられたもの。時の経過とともに門が汚れて黒くすすけていた事から、こんな名前になったのだそうです。

門の内部に入ると、教会時代の名残りが各所に見られます。代表的なのが、司教たちの彫刻。壁や柱の至る所に美しい彫刻がされていて、まるで美術館のようでもあります。

ローマ時代に兵士が見張りをしていた巡路。

見張りの為の門だったというだけあり、ここからの眺めも抜群。ただ門の中は階段ばかりなので、足腰の弱い方は要注意です。

身廊だった部分。

ここに屋根を取り付ければ、そのまま教会と言っても通用しそうですね。

ローマ時代の名残りを残しつつ、どこか宗教チックな雰囲気も楽しめるポルタ・二グラなのでした。

ポルタ・二グラ(Porta Nigra)

【住所】
【営業時間】9:00~18:00(4月~9月)、9:00~17:00(10月、3月)、9:00~16:00(11月~2月)

 

コンスタンティン・バジリカ

次に向かったのは、コンスタンティン・バジリカ。

長さ67m、幅27.2m、高さ33mという巨大なホールには柱がひとつもないのが特徴。ローマ人は皇帝の権力を誇示すべくこのバジリカを建設しましたが、たしかにホール内を包む雰囲気は壮大かつ、どこか圧倒させられるものがあります。

現代の人まで圧倒する建物を作ってしまうのだから、ローマ人はすごいですね。

内部はかなり質素ですが、ローマ時代には大理石やモザイク画、数々の像などで煌びやかな装飾がされていました。大理石の床は床暖房機能まであったというのだからビックリ。ローマからやって来た人々にとって、やはりドイツは寒すぎたのでしょうか。

しかしこれら装飾や床暖は、5世紀に攻めてきたフランク族によってすべて破壊されてしまったのです。

どんな装飾があったのかものすごく興味もありつつ、質素ながら力強さを感じさせる現在のバジリカも悪くないなと思ったのでした。

コンスタンティン・バジリカ(Konstantin Basilika)

【住所】
【営業時間】10:00~18:00(月~土)、13:00~18:00(日、祝)
※冬季時間短縮あり

 

ちなみに、バジリカと隣接してトリーア選帝侯の居城だった建物(Kurfürstliches Palais)があります。現在は政府機関の建物として使用されているため一般には公開されておらず、コンサートなどイベントが開催される時にのみ中に入れます。手前の庭園も相まって、とても優雅な雰囲気でした。

円形劇場

余談ですが、最近ドイツは本当に暑くて、この日も35度の猛暑でした。湿気がない分まだマシですが、太陽がじりじり照りつける中を歩き回るのはしんどかった…

でも取材なので、「疲れたから今日の観光はここでおわり!」なんて事はできないのです。倒れないように水分補給をしっかりしつつ、次の目的地である円形劇場へ。

2世紀に建設された円形劇場では、2万人以上もの観客を収容できたとのこと。剣闘士の命をかけた戦いのほか、処刑や重要な告示の公表などもここで行われていました。劇場の壁にある扉のような場所は、剣闘士や動物の待機所だったそう。

円形劇場の真ん中に立てば、剣闘士の気分が味わえるかも。とか言いながら、やはりこれから死ぬかもしれない人の気分は味わいたくないですね。

劇場には地下室もあります。ここには剣闘士や猛獣を地下から登場させるための「せり上げ装置」がありました。

5世紀にローマ帝国が滅亡後、中世にはこの円形劇場をはじめトリーアにある建造物の多くが採石場として使われました。客席部分に何も残っていないのは、使われていた石を持って行かれてしまったからかもしれませんね。

円形劇場(Amphitheater)

【住所】
【営業時間】9:00~18:00(4月~9月)、9:00~17:00(10月~3月)、9:00~16:00(11月~3月)

 

皇帝浴場

この日最後の目的地だったのが皇帝浴場。4世紀に建設が始まり、ローマ時代の浴場としてはカラカラ浴場に次ぐ規模を誇ります

広大な浴場は冷水浴や温水浴など、異なる施設から成り立っていました。とはいえ現在はその面影も一部でしか見られず、どちらかというと廃墟のような雰囲気。廃墟好きな方にとってはたまらないかもしれません。

さきほどもトリーアの建造物の多くが中世には採石場として使われたと触れましたが、この浴場も例外ではなかったのです。

地下には温水の通り道や、排水用そして管理用に作られたトンネルがあります。ちなみにここで使用されていた水は、モーゼル川の支流であるルーアー川から13kmの水道を通って供給されていたそうです。

排水用や管理用のトンネルは人が通れるほどの大きさで、地下のあちこちに張り巡らされていて迷路みたい。地上は30℃越えでしたが、地下なので空気がひんやりでなかなか快適でした。

皇帝浴場(Kaiserthermen

【住所】Weberbach 41, 54290 Trier
【営業時間】9:00~18:00(4月~9月)、9:00~17:00(10月~3月)、9:00~16:00(11月~3月)

 

キュートな旧市街とカール・マルクス

世界遺産ばかりが注目されがちですが、トリーアの旧市街はかなりキュート。マルクト広場にはルネサンス、バロック、古典主義といった様々な様式の家が並んでいます。広場で最も重要なのが、写真右の白い壁の家。50年の歳月をかけて1483年に完成し、市庁舎のような役割を果たしていました。

他の建物も、美しいファサードや凝った壁の装飾に注目です。

そしてトリーアといえば、哲学者カール・マルクスの出身地。今年(2018年)はちょうどマルクス生誕200年にあたり、町のいたるところでマルクス関連の展示が行われています。

5月には中国から巨大なマルクス像も寄贈されましたが、像の設置については今でも賛否両論。ドイツではマルクスの思想が共産主義独裁や東西分裂につながったという批判もあり、中国が思うほど偉大な人という扱いではないのかも。

思想については評価が分かれるマルクスですが、お土産のマスコットとしては人気です。マルクスのスノードームはあんまり欲しくないですが、マグカップはお堅いイメージのマルクスが可愛らしく描かれていてお土産にもよさそう。

マルクスのアヒル。これがお風呂に浮かんでいるシュールな様子が想像できます。そして意外と高い!

宿泊ホテル「アイビス・スタイルズ・トリーア」

今回宿泊したホテルは、「アイビス・スタイルズ・トリーア」。アイビス(またはイビス)系列のホテルは本社のあるフランスを中心にヨーロッパに展開していて、ドイツてもよく見かけます。

ホテルは駅から徒歩15分、ポルタ・二グラへ徒歩10分以内、マルクト広場や大聖堂にも5分ほどの場所にあり、観光するのにとても便利でした。すぐ近くにはスーパーやドラッグストアが入っているショッピングモールもあります。

部屋はモダンながら、ローマ帝国がテーマのインテリアでした。ドイツのホテルはエアコンがついていない所も多いですが、ここはエアコン付き。外は猛暑でも部屋の中ではかなり快適に過ごせました。

水回りも広々していて、とても清潔なのがポイント高かったです。アメニティ類は置いてないので、シャンプーやコンディショナーなどは自分で持ってくる必要があります。

朝食はブッフェスタイルで、ハムやチーズのほか、ヨーグルトやシリアルが用意されています。ドイツのホテルらしくパンの種類が豊富。またロビーには無料の水、コーヒー、紅茶類が置かれ、自由に飲む事ができました

ホテル名 アイビス スタイルズ トリーア
Ibis Styles Trier
★★★
住所 Metzelstrasse 12, 54290 Trier
チェックイン 15時
チェックアウト 12時
料金・詳細 Booking.com   ▶Expedia ▶agoda

 

トリーアのレポートはここまで。次回はコッヘム城祭りの様子を紹介します。

取材協力:ドイツ観光局

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